・ 「レオナルド・ダ・ヴィンチ 万能の人」展 ・ ヴェネツィア

先週ヴェネツィアのアッカデミア美術館で開催中の
「レオナルド・ダ・ヴィンチ 万能の人」展に出かけて来ました。

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12月1日までの会期なので、早く行かないと最後は混雑するだろうし、
かの手稿の貴重なデッサン類はやはり見て置かないと、と
天気予報なども睨みながら出かけたのでしたが、

あっけない程のいつもの少ない見学者で、独り占め的に有難く、
行ったり来たりためつすがめつ、顔を近づけ舐めれる程の近くから
見る事ができ、満足して戻りました。

あいにくお天気には恵まれず、余り写真も撮らず、
ゆっくりと美術館を出て、さてお昼をと思う頃に雨がパラパラ。
で、通りすがりにサンドイッチの太巻きを買い、齧りつつ大急ぎで駅に、
うん、また来月に来るし、とあっさりと切り上げた今回でした。

1つ、デッサンの手法について疑問を持って帰りましたが、
調べて興味深い事も知りましたので、最後にそれもご紹介しますね。
上は、今回の展示会のポスターで、



本来はアッカデミア美術館の入り口上に、こんな風に掛かり、
見える筈だったのですがぁ、

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私が行った日は美術館の前が工事中で塞がり、出入り口は脇から。
アッカデミア橋を渡るにはぐるっと美術館の裏を回る有様で、
ははは、初めて美術館の建物の後ろを眺めました。

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今回の展示は美術館内が写真禁止ですので、私のはこの1枚のみで、
あとは全てサイトから拝借です。  
http://www.huffingtonpost.it/2013/08/29/leonardo-da-vinci_n_3835090.html#slide=2853155
       


さてレオナルドの手稿のデッサンで一番有名な物、となると
やはりこれ「ウィトルウィウス的人体図」

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あまりにも有名過ぎる作品ですが、ここアッカデミアの収蔵品と言う事で、
イェイ、初めて実物を!

「ウィトルウィウス的人体図」、ずっと以前は「方円形の人体」と
覚えていましたが、イタリア語でヴィトゥルーヴィオ・Vitruvioと
呼ばれるローマ期の建築家が提唱した
「神殿建築は人体と同様に調和した物であるべき」に影響され
描かれたという人体の調和図と。
       
   
    
この図はご存知の様に、現在イタリアで鋳造される1エウロ貨に。

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エウロ硬貨は、表の金額部分は統一デザインですが、
裏はユーロ圏それぞれの国のデザインで、
私めの財布のコイン入れにも、何カ国もが入り混じっています。

イタリアが裏のデザインを決めた時は、電話による国民投票でしたが、
基本となるこの1エウロは既に決まっておりました。

で、イタリアの硬貨はデザインが8種類全部違うのですが、
その点フランスなど、自由、平等、博愛を掲げた全部同じデザインで、
何を掲げか、国によるお国ぶりがこんな所にも現れています。
懐かしい! 既に11年経ったのですね。
       


こちらが今回のポスターに使われた作品のデッサン。

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これはレオナルドのお気に入り、晩年の弟子である
フランチェスコ・メルツィ・Francesco Malzi(1491-1568/70?)
のデッサン、人物の戯画像。

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フランチェスコ・メルツィはミラノ近くの貴族出身、父親はミラノの軍指揮官、
レオナルドが彼らの居城に滞在した時に知り合い、
彼が15歳、レオナルドが55歳の時から仕えるようになります。

そしてレオナルドの晩年の十数年間を忠実に仕え、
フランスで、国王フランソワ1世に与えられた城での臨終をも看取り、
レオナルドの遺産、作品のすべての相続人となります。

若い頃のレオナルドの有名な弟子にサライがいましたが、
美貌で手癖の悪いサライと違い、フランチェスコは家柄も良く、
多分実の父親以上に、偉大なる師に敬愛を籠めて仕えたのでしょう。

受け継いだ遺産の中に、これらの手稿デッサンも含まれていた訳で、
フランチェスコは忠実に護り通しますが、彼の長男である法律家
オラーツィオ・Orazioの代になり、スペイン王フェリペ2世のお抱え彫刻家の
口車に乗せられ、手放し、これがレオナルドの手稿散逸の始まりとなります。



デッサン類は、ペンとインク、水彩を部分に、という物や、

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これは印刷された物だったと記憶していますが、

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いずれも会場で見る印象は、これほどはっきり見えず、
もっと柔らかい印象で。



このデッサンも、以前レオナルドのデッサンから実際に動く模型を
作った展覧会で見た時は、かなり大きく、強い線に見えたのですが、
実物は小さく線も柔らかく。

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レオナルド・ダ・ヴィンチの発明した物、考案したもの
https://italiashinkaishi.seesaa.net/article/461685811.html

   
    
今回実際に見ての印象、今迄本やサイトで見ていたのとの
大きな違いは、大きさが本当に小さく、線が細く、柔らかい、という事。
       
会場の照明が少し薄暗い事もあったのですが、これなど、何が?と
かなり見つめ、ああ、騎馬の男がドラゴンと戦っている、と。

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戦いの図で有名な「アンギアーリの戦い」のデッサン類はこちらに。
「アンギアーリの戦い」始末記と、その周辺もろもろ
https://italiashinkaishi.seesaa.net/article/461130197.html



印刷したりサイトで見る場合、何が描いてあるのかはっきり見せる為、
また写真に撮るだけでも肉眼とはまた別の物になりうるわけですが、

会場でこういう小さなデッサン、それも裏表に描いてある物もあり、
小さなサイズにこれだけの物を描く技量にも驚きますが、
次々と浮かぶアイディアを、心覚えに描いて行ったのだろうなぁ、と。
  
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この女性の胸元のデッサンも、会場で見た時は
顔があるのに気が付きませんで!

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パルマの絵画館から来ていた、懐かしい作品にも再会。

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パルマ行き  総集、予告編      
http://www.italiashiho.site/archives/201809-1.html



最後の晩餐も、こんな風にアイディアが練られた訳ですね。

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今回、私が気に入ったデッサン類はこれら、
花、そして様々な物が同じページに描かれた物の1枚。

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最初の「ウィトルウィウス的人体図」の人体の周囲も細い細い線、
ハッチングと呼ぶ、線を並べて調子を付ける、で囲んでいるのですが、
       

ここに見える線の細さに、実は驚いたのです。
ペンでこんなに細い線が引けるわけがない!と。

勿論「ペンとインク」と分かる線もあるので、なおの事興味を持って眺め、
最初は顔を近づけてしげしげと。 そしてブザーが鳴らない事に安心し、
メガネをはずし、ははは、それこそ5cmかそこらから見たのですね。
こういう事が出来るイタリア万歳!なのです、本当に!

それから作品札の「材質」に目が行き、
プンタ・メターリカ・punta metallica・金属の先っちょ、に。

最初は鉄筆かな、と思ったのですが、銅とか金、銀もあるのですね。
紙についても、(それ用に)準備された、と書いてあります。
なんだろ?! 家に戻って調べました。
       


プンタ・メターリカで検索を掛け、遂にこの写真が見つかり、
その手法についても記したサイトが見つかりました。

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つまり紙を、鉛とか錫の金属で覆い準備したものの上に、
金属の細い先で描くと薄いグレーのデッサンができ、
それが酸化して明るい茶色になり、繊細な作品となる技法で、
しばしば、先に顔料で紙を染めるのと共に準備されたのだそう。

この技法を使うには、紙を既に金属が覆っているので消す事が出来ず、
しっかりした作画意図を持ち、安定して描ける技量である事が求められ、
15世紀頃ドューラーとか、レオナルドが好んだ手法なのだそう。



こちらはファン・デル・ワイデンが、この技法で描いた聖母子像で、
繊細な線の衣装の襞の美しい作品。

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後の17世紀になると、多分鉛筆の台頭でこの技法は流行から外れ、
18世紀になり、細密画を描く事から再評価を受けているのだそう。


上でご覧頂いたプンタ・メターリカの写真は、フィレンツェの画材店
ドゥオーモ近くにあるゼッキ・Zecchiの物で、
昔この店でテンペラ画の顔料を買いこんだ事があり、懐かしい再会でした!

ゼッキでは、このプンタ・メタリカを使う為の、既に金属加工した紙も
売っている様子で、さすがぁ! ご案内はこちらに。
http://zecchi.it/products.php?category=2
       
ゼッキのHPのカテゴリに見えるVETRINAを開くと、
ラピスラズリや貝金も見え、何かわくわくする気持ち!



ここからは、ちょっとおまけで、
今回の展示会場は、アッカデミア美術館の最後の部屋の近くで、
矢印に従い逆回りに見に行ったのですが、
 
なぜか、このジョルジョーネの「老婆」の作品が最初の部屋に!

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それはね、ははは、まぁ、見れるのは良いですが、
とっぱしに見たので、少しあっけにとられた感もありで。

    

最後ついでに見に行った、好きな「十字架の奇跡」を描いた
2枚のある部屋で、上の作品はジェンティーレ・ベッリーニ。

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「十字架の奇跡」は元々が複数の画家に依頼して描かれた作品だそうで、
       
単純にカルパッチョの作品と思っていたのもそうではないとの事で、

今回しげしげ見ていて、今更ながらに、物の大小で遠近を描き、
空間の意識が無かったんだ、と気が付いた私。
はい、幾ら読んでいても、実物で納得するまでは頭に納まらないshinkaiで。

ならば空気遠近法で描き始めたレオナルドと時代の差は、と見ると、
カルパッチョの方が13年ほど後に生まれ、没年もそれくらいの差。
ならばぁ、やはりレオナルドは凄かったんだぁ、と
こういう考え方はいかにも短絡的ですが! ははは。

それにしても「カルパッチョ」だけで検索を掛けると、イタリア語、日本語版とも
ずら~~~っと、料理のカルパッチョが出てきます!!
       
カルパッチョの回顧展の時に、ヴェネツィアのハリーズ・バーが
考えた1品と言う事らしいのですが、
何となしに、「本家越え」という言葉を思い出しましたぁ、へへ。
  
     
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