・ n.6 ポンペイ遺跡 最終回 ・ 秘儀荘 その2

お陰さまで、漸くにポンペイ遺跡のご案内の最終回。
こういう旅の纏めはブログをしているからこそできる事で、本当に、お陰さまです!

ポンペイの北西、城壁外に位置する秘儀荘・Villa dei Misteriの
ご案内2回目。 さて、あの有名な壁画の部屋に行く前に・・、

写真は、一つ手前にある寝室で、巫女と、踊るサーティロ・Satiroと。

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隣の壁画にもSatiroの存在があり、これが辞書を引いてもイマイチ、ピンと
来ないのですが、日本の辞書によると、色子とか、性的に貪欲とか表現され、
ギリシャ神話のサチュロス、半人半獣の森の神と。

イタリア語の辞書でも似た様なものですが、我がイタリア語の先生アンナリーザ
によると、役者だと。  という事であれば、

半獣にも描かれておらず、ギリシャ悲劇に出演の子役の様なものかと。
そう考えると、納得できる気もしますが、どなたかご存知の方、お教え願います!



この部屋の床モザイク、色使いも上等でしょう?
寝室と言っても奥の部屋なので、これも納得ですね。

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もう一度、家の平面図をどうぞ。 上の寝室というのは、4.の部分、

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そしてあの有名な壁画は、5.Sala del grande affresco に。

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隣との境は閉じられ、前部からの眺めだけで、良く見えるので文句は言えない物の、
奥は遠く斜めになりますし、細部を眺めるのは無理な状態。

昔子供の頃にこの絵の一部を本で見て以来、なんと美しく魅力的で、
不思議な絵なんだろう、 どんな大きさ? 何を描いているんだろう?
とずっと考えて来ましたから、今回このチャンスを得て
どんな場面か、大きさも等身大と分かると、もっともっと意味が知りたくなりました。

フレスコ画とはいうものの、通常のフレスコ画が艶なしなのに、
ここのは、というよりもポンペイの壁画の大半に共通する特徴の、
艶のあるのがしっかり分かるのは、どういう工程で描いたのかも知りたく、

またつい最近、このポンペイの赤色は、本当は黄色だったのが、噴火のガスの
影響により赤になったのだ、という研究発表があったのも、皆さんご存知ですね?
       
そんなこんなも含めかなり一生懸命に読みましたので、
上手くお伝えできますように!


写真はかなり撮って戻りましたが、なにせ遠く前面からで、斜め位置の写真
となるので、これ以降はガイドブックからと、ウィキペディア・W と記します、
からのでご説明を。

まずは全場面を2つに分けてどうぞ。

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絵のオリジナルはギリシャの紀元前4~3世紀のものだそうで、
これが描かれたのは紀元前1世紀の中頃と見られ、

上の写真でお分かりのように壁の3面に渡って描かれ語られ、
左から右に進む全体の長さが17m、高さ3mの物。

この高さは、壁の床から天井までのものと思われ、描かれた人物は等身大と
お考え下さい。

この古い時代に描かれた物の中でも、これ程の素晴らしい出来ばえの物は
他に類を見ない、という事もありますが、
       
同時に、この不思議な絵について未だに何が主題なのかが論争され続け、
様々な定義付けがあるようで、どちらがというのも到底難しく、
ここでは、どちらの説も一緒にご紹介致しますね。
       


こちらがガイドブックにあった説明図で、I~Xの場面に分けているのに従い、

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登場人物は全部で29人、いずれも舞台の上の高さのイメージで、
これからもかなり劇的要素が強く感じられますが、

I. 儀式の会則を読む少年と、寄進者(写真W)

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ギリシャ神話の酒神ディオニュソス、ローマ神話ではバッカスにあたりますが、
その酒神礼拝というのが当時ローマでも大変盛んで、というのも、
入信すると現実から逃避できるという触れ込みで、悪い風習、多分飲酒が
紀元前2世紀頃に大いに広まったのだそう。

おまけに女性や奴隷も参加できたので、ひょっとして人種混合の性的交わりを
行う秘密宗教団体では、とローマの上院は許可なしの宗教集会を禁止、
違反者は死刑、とのお達しも出たそうですが、ポンペイではまるで関係無しに
続けられていたそう。

近年フランスの歴史家 Paul Veyne なる人が、この絵に新しい意味づけを
与える発表をしているそうで、比較する為にも、こちらの見方も一緒に書きますね。

彼によると、この絵画は宗教儀式にはまるで関係なく、裕福な家庭の
娘の結婚式の準備を描いたものだそうで、
この場面は、花嫁の弟が古典の文章に集中している姿で、後ろに座っているのが
家庭教師で、手に巻物を持ち、左側に立っているのが少年の母親、
学問の進み具合を吟味していると。

右端のお盆を持っている女性は、従来の説では、春を現わす女性が
聖なるパンを備える、としているのに、

フランス歴史家説は、女性は奴隷で、婚礼の良き印としてのゴマの入ったパンを、
招待客に運ぶ為に持っている、と。



II. 従来説、左から夏、冬、秋を現わす女性で、(ガイドブック)

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右の秋を現わす女性が(この絵では切れていて)下の絵の左端に見えますが、
お盆に水を注いでいる所で、真ん中背中の女性が巫女である、と。
すんまへん、書いている私もこの辺りの説明が良く分からず・・。

仏人説では、水を注いでいるのは、婚礼の水浴の為であると言い、
実際ローマ人の風習では、婚礼の初めての性的交渉の前に、宗教的な
水浴をする事が行われていたとか。



III. と IV. ギリシャ神話の森の神、ディオニュソスの従者の半獣神シレノス
が竪琴を弾き、奥の笛を吹いているのは、女性の羊飼いで、
羊飼いが山羊の子に乳を与えている場面。(写真サイトから)

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仏人説、この音楽家は婚礼の為に雇われた事を暗示していると。

右端の女性が驚いた仕草と顔で、大きくマントを広げ逃げる様子ですが、
次に見える少年が掲げる芝居の面に驚いている、と言い、



V. と VI.左場面 別のシレノス、頭に蔦の冠を被り座っている、が、
仲間の若いサーティロ(上記)に、カップからワインを飲ます、または若者が
カップの底を覗きこんでいる、後のも一人のサーティロは、半ば冗談で面をかざし、
(写真ガイドブック)

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いずれも大体似たり寄ったりの説で、右半分が一番剥落部分が多いのですが、

ディオニュソスが既にサンダルを片方脱ぐ程に酔い、アリアドネーの膝に
寄り掛かっている、という図で、この場面は部屋の一番正面に当たり、
宗教的儀式の始まる鍵になる場面だというのですが、

仏人説は、ディオニソスは酔う程に愛人のアリアドネーを愛していて、
自分よりも高い位置に彼女を置いているのは、花嫁の幸せと子宝に恵まれる
暗示であると。


       
VII. 真ん中の跪いた女性が儀式でファッロ・Fallo という自然活動の源を
示すシンボルである棒を取り出し、籠に入れるという場面なのだそうですが、

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ファッロという言葉はもっと直接に男性のシンボルをも示し、
絵が見難いのとで、・・よう分かりまへん。

右に見える羽のある女性が鞭を振り上げている姿が、この場面の中寄りに
見えるのが、私には一番分からなかった部分ですが、

中央の膝まずいた女性に属するのではなく、次の場面の左側に繋がると知り、
納得。 ・・位置配地をもっと上手くしてくれぇ、と内心文句、ははは。



VIII. 左側、鞭うちされた若い女性が、庇護を求めるかのように、
腰かけた女性の膝に蹲っており、

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伝統的解釈では、ディオニュソス礼拝の宗教団体では(新入会者には?)
鞭打ちは一般的な事だったと言い、

仏人説では、この若いヌードの女性は、新婚初夜に恐怖を抱いた言う解釈で、

続いてヌードでタンバリンを持って踊る女性の後ろ姿があり、
その背後に杖を支えている女性姿。
・・う~ん、この辺りの事情背景が分かりませんねぇ。

後ろの女性が支えている杖は、正面の酔っぱらったディオニュソスの膝に
寄り掛からせているのと同じ様ですし・・。
       

       
IX. この場面はいずれも同じ様に、花嫁が婚礼の準備で、
伝統にのっとって髪の毛を6つの房に分けている所であると。

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X. 家の女主人であると言い、最近の説では娘の婚礼準備を援ける母親、とも。

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この絵は、入り口の右手前壁にある様で、これは見ていないのです、
残念、前の方を見たいばかりで気が付きませんでした。

という事で、絵の背景については確かな事は分かりませんが、いささか神秘的で
舞台運びの様な素晴らしい絵と、それを愛でるだけで良いのかもですね。

所で、この部屋はtriclinio・横臥食堂、つまりローマ貴族が横になりつつ
食事をする部屋だったと言い、
こういう絵を見ながらの食事、う~ん、優雅というかなんというか、凄いですねぇ!


       
そしてこの背景に使われている赤色、ポンペイの赤、と呼ばれる有名な赤色が、
こうして写真が変わるだけで、随分と発色具合も違いますが、
どんな画材で、どんな描き方をしていたのかも気になり・・。

ポンペイの赤、で検索をかけて出るのがこの赤、随分と上の色と違います。
       
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写真の色の発色は、隣に来る色、全体の暗さ明るさに因って大いに変わりますし、
カメラによる違いもありますね。

色の元を調べると、最初は辰砂を使っていたのが、この鉱石は水銀を含む事から
体に悪いのと、大変高価な事から、
朱に近い色から弁柄色までの自然界の色を使用するようになり、

色の名で言うと、ロッソ・イングレーゼ・rosso inglese、エマティーテ・ematite、
テッラ・ロッサ・ディ・ベローナ・terra rossa di Verona、そしてオークラ・ロッサ・
ocra rossa辺り、

それに土地の特有の赤色があるので、それらを混ぜていたのではないかと、
つまり実際に見た赤色は、上で見る色よりもも少し明るい印象がありましたので。
       

と、つい最近の学者の研究発表で、ポンペイの赤はオリジナルは黄色で、
噴火のガスの影響で赤になった、というのがあり、かなりの反響を呼びましたが、

今迄あれこれご覧頂いた中でも黄色と赤の差は明確に分かりますし、
黄色であったというのであれば、どの種類の黄色が赤になるのか、
その辺りが知りたいですね。

と、肌色との関係から、黄色という背景はかなり難しいのではないか、
背景が赤である事を初めから決めていて、肌の色があるのではないかと、
あれこれ考えますが、

途中であれこれ研究発表の資料もファイルしましたので、
またじっくり読んでみたいと思っています。

cuccciolaさんが、この発表についてこちらに。
http://blog.livedoor.jp/cucciola1007/archives/3037807.html       


次に描法ですが、通常のフレスコ画では出ない艶があったのは自分で見ましたので、
これについてもあれこれと。

日本の方のブログで、石灰とロウを加えた石鹸水に色を混ぜて絵具を作り、
鉄ごて、大理石のローラーや磨き石等で描いた絵を磨き上げ、
最後に布でつやだしをする、と書かれているのを何件か拝見しましたが、

当時はまだ石鹸が使用されていない時代であり、石灰とロウを加えた石鹸水で
色を混ぜる、というのは顔料を使ってテンペラを描いていた身にはどうもピンと来ず、

磨き石などを使えば色が剥げるであろうし、と、
どこかに描法が無いかと探し回って、これかなと思うのを。

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エンカウスト・Encausto という古い描法で、大理石、壁、木材、テッラコッタ、
象牙などにも描いていて、
顔料をチェーラ・プーニカ・cera punicaという蜂のロウに溶かし、これは粘着性を
持たすためで、この液を火鉢の中に入れ温めて置いたのを、
筆、またはヘラで描き、その上から金属製の工具で押さえたのだそう。

チェーラ・プーニカという蜂のロウ、蜜蝋は、ほんの少し鹸化し、
これが顔料をすべらかにし仕事をし易くすると。

ですからフレスコ画というよりテンペラ画描法に近く、
仕上げも、乾いた後に少しの油を混ぜ溶かした蜜蝋を上から塗り、
温めた工具などで温めてロウを滲みこませる様にし、
仕上げは適温の布で艶ぶきをしたのだそう。

この描法は既にギリシャ時代に確立されており、ポンペイの壁もこの方法であると。

フレスコ画というのは、壁にした下塗りの乾かない内に絵具を水で溶いて描き、
テンペラ画は粘着性のある卵の白身、黄身などを媒体にして描くもので、
他にも媒体はあれこれありますが、

時代が下がり、かのレオナルド・ダ・ヴィンチがフィレンツェのヴェッキオ宮の壁に
試みて失敗したという、「アンギアーリの戦いの図」は、フレスコ画に多分
このエンカウスト描法を取り入れようとして、失敗したのであろうと。

「アンギアーリの戦い」始末記と、その周辺もろもろ
http://italiashinkaishi.seesaa.net/article/461130197.html

つまり、日本の方のブログで拝見した描法や仕上げは、結果的にまるで違っていた訳
ではないのですが、かなり短絡的説明で、疑問を持ったのが逆に私には幸いで、
レオナルドの戦い図の失敗原因にも、納得もでき、あれこれ知るチャンスとなりました。
エンカウストの描法についてもっと細かい方法も見つけましたが、ここではパスしますね。
       

蜜蝋で作った蝋燭は、中世市などで見かけた事があり、
これは灯しても煤が出ないのだと、聞きました。

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さて、これでポンペイの遺跡、最後の秘儀荘の壁画についてもなんとか書き終え、
ちょっとホッとしています。

長い拙いご案内にお付き合い下さり、本当に有難うございました!
興味を持って書いたのが上手く伝わり、楽しんで下さった様にと願っています!


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