・ 世界一のワイン樽製造所 ・ ガルべロット のご案内を 

今日は先月下旬に見学した、我がコネリアーノにあるワイン樽製造所のご案内を。

この製造所は、世界一と言える素晴らしいワイン樽製造所で、前を通るので、
樽工場があると知りつつその実質を知らず、ワインも毎晩飲みながら、
そのワインを熟成させる樽については考えた事もなかったのですが、
ちょうど良い機会と皆さんにもご紹介を。

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工場の名は ガルべロット・Garbellottoと言い、18世紀から続く伝統技術を
守り発展させ、熟練技能職人集団ともいう、素晴らしい企業なのでした。

外の木材置き場と、出来上がった樽の写真はOKでしたが、
工場内は遠慮してくれとの事で、今回の写真は殆どパンフレットから。
       


工場敷地の全体写真をご覧になってお分かりのように、製造部分よりも、
木材を貯蔵し、自然乾燥させる土地の方が広いのですね。

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で、ワイン樽の歴史について、ほんの少し。
樽や、樽作りの職人技術についてはその起源が分からない程古いと言いますが、
最初は木の幹をくり抜いた形、いわば盥の形があり、それに蓋をする形で、
     
がこれは運送には不便。 液体を入れると重たく、転がすには回転しませんし、
で、真ん中を膨らませた現在の樽形に、という発展。

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この樽・ボッテ・botteは、温度調整、熟成にも効果があり、テッラコッタ容器の
壊れやすさとも関係なく、いざとなると、樽自体をばらして運ぶ事も可能ですから、
この丸い樽の様式が瞬く間にギリシャ・ローマの世界に広がります。

写真は、ローマ期3世紀の、ワイン樽を運ぶ船の様子。

ローマの10番目の州であったヴェネトからフリウリにかけても樽作りが盛んで、
とりわけ大司教座のあったアクイレイア・Aquileiaに多く、
238年にはイゾンツォ河・Isonzoにかき集めた樽を繋いで橋をかけ、
マッシミーノ・Massimino il Trace が軍隊を渡した、という記録も。



アクイレイアの博物館にある、ローマ人の樽作り職人の石碑(葬い碑)で、

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上に小さな樽が見えますが、それから時計周りに
・カーヴしたナイフ、握り部分が万力ボルト  ・上と似たナイフで、カーヴがきつい
・万力ボルト  ・両刃斧 (石碑内の大きな図) ・斧とナイフ

で、これらは、現在も使われている道具との事。



ヴェネツィアのサン・マルコ聖堂内の、浮彫の細部。
       
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蛮族の侵入で一旦下火になったワイン製造も、キリスト教が栄えるに従い、
ミサに用いられるワインの必要もあり葡萄畑も増え、樽の製造もこの一帯に栄え、
中世より、樽に詰められたワインは北国にまで運ばれて行ったと。

そしてヴェネツィア共和国の下で、船での運搬も大いに繁栄、ヴェネツィアには
今も 樽職人小路・Calle dei Botteriが、 大運河のカ・ドーロの向かい側の
魚市場の西にその名が残ります。



工場見学の日、見学者への説明対応の部屋の横に、こんな家具類も見え、
もともとは木製品一般の手工業からの出発で、ワイン樽のみならず
建具から高級家具迄手掛けていたのだそう。

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現在はワイン樽のみの製造ですが、木材を選ぶ過程において出る、
樽製造には不適な木材は、これが半数以上に当たるそうで、別経営の会社の下、
家具製造会社に売っているとの事で、木の特性からしてお互いに良いのだそう。



この証書は、この春4月ヴェローナで開かれたヴィニイタリー・Vinitalyにも展示された、
ガルべロット製作の世界一大きい樽の証書で、

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大きさ    360cm x 450cm
樽板の厚み  8cm   底板   10cm
入る量   33300L (瓶詰め 44400本分)



corrieredelvenetoのサイトからの写真でどうぞ!

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これはギネスブックに記録された大きさだそうで、
注文はヴェローナのヴァルポリチェッラ・Valpolicellaのあるワイナリー。
200樽ほどの一連の注文の最後に、何か特別な物を、と出来上がったのだそう!

勿論工場内で製作、現地へ運搬ですが、それはもう大変な運搬作業だったそうで、
知っていれば、見に駆けつける所でしたぁ!

最初聞いた時は単にその大きさに驚いたのですが、工場でその制作過程を見学し、
大きな樽製造には、それに見合う技術が必要な事を見せつけられ、
凄いなぁ!と一層感嘆したのでした。



工場奥の木材置き場から、説明を聞きつつ見学。

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ワイン樽製造に一番向いているのは樫の木で、一番質の良いのはフランス中央の
樫林のもの、現産地保証付きの120年から130年生育した木を購入。

なぜイタリア産が無いかというと、単純に樫林が無いからだそうで、
フランス中部の平坦地の林の木が、年輪のでき方が同質で良いそう。

スロベニアの樫も質が良く、イスラムの国でワイン製造がないので量が豊富、
トリエステからわずか170kの距離で近いですから、そちらからも。

但し、バルカン辺りの木は時に弾痕が入り込んでいて、知らずに機械鋸にかけると
歯が飛びますから、金属探知で調べるそうですし、

フランス産の木はダンチに値段が高いので、時にロシア産を誤魔化して
売りつける手もあるとかで、こういう場合は、ガイガー・カウンターで検査する事も
起こりうるとか。 何やらきな臭い話しですね。

樫の木以外にも、桜、アカシア、トネリコ、栗の木など注文に応じ製造するそうで、


購入した木は、こうして丸太のまま自然乾燥させますが、様々に印が付けられ、
割れを防ぐためにカネも打ち込まれています。

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こちらは、板挽きの方法ですが、

4角に割り、それから平行に挽く方法、
これをするには、木が大変太く目詰まりが平均している必要があり、
手間がかかる割には元が取れないそうで、余り使われない方法だと。

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現在、中以上の大きな樽作りに使われている唯一の方法で、
目詰まりが平均していると、どの部分の板も樽作りに適応との事。

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唯一、樫の場合、真ん中中心部分は腐りやすいので、
樽作りのみならず他の製品にも使われないと。



かっての伝統的な、スパッカート・割る と呼ばれる方法で、ケーキを切る様に割り、
そこから板を切り出す方法ですが、大変な無駄が出ます。

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現在の様に木の値段が高価になると勿体なく、この方法が取られるのは、
伐採地が大変不便で丸太のまま運び出せない地でのみ、使われるそう。

かって最後の方法が重要とされたのは、ビールなどの発泡性にも樽が使われたからで、
この方法で得た板で作る樽は、目が平行になり、不浸透性に優れていたからだそう。
現在ではビールや発泡性ワインには、スチールのタンクが使われますし、
樽製造の技術も進み、原価が高くつくこの板は小さい樽のみの様子。
      


丸太のまま保存し、板挽きにした後もこうして積み上げ、自然乾燥されます。

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板の自然乾燥が欠かせぬ訳は、こうする事で気孔が開き、樽になって後も
空気の浸透を可能にする事、
自然乾燥の間に、板自体の欠点や不整形が明らかになり、選別できるからと。

「ワイン樽」と一口に言ってますが、このワイン樽は、アッフィナメント・Affinamento
と呼ばれるワイン熟成の為に寝かせる樽なので、樽の中のワインに
空気が通る樽でないとならず、

また単に乾燥させた板だと、空気中の湿度やワインも吸い込み膨らみ、
樽自体の変形、内容物にも悪影響を与えるので、この自然乾燥が欠かせない訳。



これは、同じ様に割った板の自然乾燥で見える違いですが、
木の繊維により、板の厚みにより、その時の気候により、産地により様々で、
これを見分けるのが、樽職人の眼力だそうで。

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大体1cmの厚みにつき6か月間、つまり6cmの板だと36か月、3年必要との計算。
8cmだと4年間かかる事になりますね! 木材置き場が広い訳です。

ワイン熟成の為の樽と言いましたが、木目がしっかり詰まっている方が、
ワインの味が柔らかく、育成の早い木目の荒いのは、ワインの味も強くなるとか。
       
で、樽作りの際の板選びは、注文主の求めにもよりますが、
格別な注文でない限りは、ガルべロットの技術任せ、つまり、板の割合を混ぜる
のだそうですが、その率は企業秘密だそう。
      


カタログから、1900年から20年、30年代の写真を。
当時は大きな組み立ては屋外でしていたとあり、働く少年の姿や、
荷車運搬の馬たちも見えます。

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ガルべロットは、最初は家具類なども作っていたのを1920年から樽専門に。

樽作り業界が一番繁栄したのは、1920年から70年にかけてで、
その後一つづつ消滅、遂にこのガルべロットのみが残ったのだと。
技術が優れ、その品質と大きさ、量も他を抜いていたのが理由だそう。



現在の工場の様子。 近代的な道具の揃った屋内で、
木を切ったりは機械ですが、他はすべて手仕事!

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経験を積んだ人間の目が選び、仕事を決め、仕上げていくのですね。



工場内の入り口部分で、運ばれて来た板を一枚一枚、長が印をつけ
選りわけて行きます。

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板の目が、真っ直ぐに通っているのを見て頂こうと思ったのですが、見えるかなぁ?
      
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屋外の板の自然乾燥で既に半分程以上もアウトになったのを、
この両端の白い部分をまた切り落とします。
      
で、写真はここまで、と言われました、はい。



ワイン樽の種類について。

丸樽

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楕円形

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盥形

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盥形の樽

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で、大きさ1000L以上を ボッテ・botte(複ボッティ)と呼び、



5つ並んでいるこの小ぶりの樽は、バリーリ・barili、つまり1000L以下の樽を
区別してこう呼ぶそうで、

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5つ並んだ樽の大きさは、左から750L,550L,350L,250L,100Lで、
いずれも底板は真っ直ぐ。



この楕円形の樽の写真で良くお分かりと思いますが、
大樽の場合は底板が中に凹んだ形で、小樽の場合は真っ直ぐなのですね。

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比べる大きさの樽が横に無くて分かりにくいですが、
上の最初の丸樽は3000Lとありますから、高さが2m以上でしょうか、
注文主の好みにより、口金の形、金具、飾りで値段が違うそうですが、
大体2500Lの樽で、5~6000エウロと聞きました。 (2010年時の値段)
      
楕円形の樽は狭い場所を活用でき、樽の表面積が大きい、つまり
空気に触れる面が大きくなるので良いのだそうですが、樽のカーブが
複雑になり、作るのが難しく、

口の開いた盥形は、発酵作用に最適で、

盥形の樽は、見かけよりずっと作りが難しいのだそう。底板は全重量がかかる為
強くないとダメで、樽板はホンの少しのカーブ、上板は良く締められ少し尖っていると。

この形は、カンティーナの高さを最大限に利用できる利点があるものの、
いささか美的でない点、そして底板にたまるオリに触れる液面、樽上部の
空気に触れる面が大きい、という理由で、余り使われていない形だそう。
       


切った樽板を樽の形、つまりお腹が膨らんだ形に整形する工程には火を使います。

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上の様に小さな樽の場合、既に計算されて切られた板を纏めてまず輪で閉め、
つまり、各樽板のカーヴが其々に組み合う形に切られており、ぴったり合って
円形になる訳ですね。
中で火を焚き、時に水をかけ、板が柔らかくなった所で、下側も閉めるという具合。



大きな樽の中で火を焚いている写真は上側が開いていますが、
私が見学したのは逆でしたから、色々な工程があるのでしょう。

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直接の火の他に、蒸気を与える窯(ボイラー式)もあり、両方の技術が必要なのだと。

底板を嵌める工程は見れませんでしたが、カタログによると、
大きな樽の場合の凹んだ蓋、底のはめ込みには蒸気を使うそうで、
これは大変な経験と技術の賜物の様子です。

ましてカタログにある図を見ると、底板をはめ込む溝穴は、逆に入り込む形なので、
私の頭脳の想像を超えます!



注文主の愛情のこもった樽なので、樽板への意匠も大変に凝った芸術的な物、
高価な物と色々ありそうで、樽の蛇口も、単純な木製からステンレス製の凄いのまで
様々なアクセサリーがカタログに。

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面白いこぼれ話を。 ロシアのガス企業のオーナーがやって来て、
樽のタガ、これは一般に鉄に亜鉛メッキの輪を使うのを、この大金持ちは、
金でやってくれと言ったそうで、警備員をつけての仕事はできない、と断ったとか。



で、出来上がった樽の運び出し。 樽の大きさを想像して頂く為に、
人間の写っている写真を選びました。

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ガルべロットの樽の納まったカンティーナの写真をどうぞ。
少し小ぶりな樽が2段に積まれたもの、この形は良く見かけますね。

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巨大な盥形の樽の並ぶこのカンティーナは、アメリカはカリフォルニアの
GALLO WINERYで、世界で一番大きな熟成蔵だそうで、この列の並びが28列!
全体で120000Lとか。 この樽は、確か現地で組み立てたと聞きました。

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白黒写真は、世界で一番美しいカンティーナというドイツのヴュースブルグにある、
JULIUSSPITAL WEINGUT. 元は司教公爵のお屋敷で、壁画はティエポロ!
ここに現在ガルべロットの樽が納められているのだそうです。

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ガルべロットのサイトは  http://www.garbellotto.com/

こちらのYoutubeで、樽作りの様子も少し見れます。
https://youtu.be/kPk39clUOns



出来上がった樽の内部は、掃除がしやすい様に軽くカンナをかけるだけだそうですが、

外側は綺麗に磨かれ、天然素材のニスが掛けられます。勿論空気の
流通を妨げない様に、単に汚れを防ぐ為とか。

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周囲の赤色はかっては赤ワイン用で、白は緑と区別した様ですが、
現在は伝統を残す赤色のみの様子。

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この部分は板の切り口ですから、しっかりニス掛けで、ガルべロットのマークと、
縁の上部分に番号。



樽全体が写っているのは許可を貰い、
これはピエモンテのバローロ・Baroloのワイナリー行き。

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最後の最後に、外から工場内を!

と、長々とご案内致しましたが、
興味深く見学した様子が、上手くお伝え出来ましたように!


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