・ n.2  トリエステ ・ 黄昏

今日は、グロリオーザさんの「国境の街トリエステ・n.2 トリエステ・黄昏」 
のご案内です。
いつもと一味違う彼のご案内で、ゆっくりと、黄昏のトリエステのご散策を。
***

さわやかに晴れ渡った午後だった。 私はホテルのチェックインを終えるとすぐ、
海に向かった。 ホテルから垣間見えた、海の切れ端。
それが、通りを1つ越えた途端に青いカーテンの様に、
ふんわりと私の目の前に広がった。

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アドリア海に突き出た1本の埠頭に踏み入る。
あと数時間で11月も終ろうというのに、コートどころか、セーターさえも
脱ぎたくなるような暖かさが港を包んでいる。

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「勇者の埠頭」には、老人夫婦、婦人のグループ、若者のカップル、
さまざまな人たちが、この埠頭を目指して集まってくる。
店があるわけではない、イベントが開かれるわけでもない。あるのは海だけ。
そんな場所に、世代を超えて続々と人が集まってくるのだ。

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モーロ・アウダーチェ。 「勇者の埠頭」と名付けられた場所に
集う人たちのまなざしは、その勇ましい名称とは裏腹に、慈しみに満ちている。

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まだ10代と思える、旅の途中の女性が、釣り糸を垂れていた老人に話しかけた。
「この海の向こうには、何があるんでしょうね」
「海の向こうかい? 向こうにあるのはイタリアだよ」

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トリエステは、イタリア。 しかし、異国の装いに彩られたイタリアだ。
シシーの銅像を街の玄関に据え、ウンベルト・サバが通ったという、
老舗のカフェ、サン・マルコの壁は、アールヌーボーで飾られている。
角の土産物店では、モーツァルト・チョコが主役だ。

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オーストリア領だった時は、内陸の国唯一の港湾都市として揺るぎない地位を
築いていた。 が、港だらけのイタリアに復帰したとたん、その存在価値は
辺境の一都市、というレベルにまで落ち込んでいった。

過去の歴史に対する強い郷愁と、ほのかにくすぶる憎悪。
今の、置かれた立場への、心のゆらぎ。
そんな、エトランゼとしてのイタリアが、ここに漂っているように思える。



青かった海が次第にオレンジ色に染められて行くにつれ、
人々は寡黙になっていく。

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視界の先にあるのは、アドリア海に沈み行く太陽。
潮騒のリズムに合わせて、きらめく光の粒が波頭に広がり、
黄昏の世界は急速に赤味を増して焼け付く。 何という色だろうか。
私の脳裏には一つの言葉しか浮かばなかった。 
「血の色の海」

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哀しいまでに美しい光の変化を常に見続けて生きる人は、
心に何を宿すのだろうか。

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すっかり日が沈み、宿に向かって歩くうちに、運河にぶつかった。
運河といっても、ヴェネツィアとは一味違った真っすぐに延びる運河だ。
その突き当たりに建つサン・ジョヴァンニ教会が、黄金の衣をまとって、
闇に浮かび上がっている。

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夜とは言ってもまだ8時を過ぎたばかりなのに、街路を歩く人の姿がとても少ない。
その分だけ、石畳を踏みしめる靴音が乾いて聞こえてくる気がする。
 
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風が出てきた。 それも急に勢いを増し、ボタンを外していたコートが、
引きちぎられるかの様に翻った。思いがけない衝撃に、ふらりとよろけそうになる。
夕方までの暖気はどこへ行ったのだろうか。 一足早く飾り付けられた、
クリスマス・イルミネーションが激しく揺れ、刺す様な冷たさが、街を吹きすぎる。
 
交差点で、信号待ちをしていた女性に声を掛けてみた。
「これがボーラという風でしょうか?」
冬のトリエステに吹き荒れるという、季節風の事を思い出したからだ。
女性はかすかに笑みを含んで、首を横に振った。

代わりに、ハンチングの良く似合う老紳士が答えてくれた。
「ボーラはね。こんなもんじゃあないよ。
ボーラが吹いたら、あんたなんかすぐ飛ばされてしまうよ」



「ボナ ノッテ」 別れ際の老紳士のしわがれ声が、風に乗って闇に舞った。

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追記:写真は、ヴィア・ダンテ・アリギエーレの路上にある
   詩人ウンベルト・サバの銅像です。 2018.9.20

***

如何でしたか、今日のグロリオーザさんの「黄昏のトリエステ」のご案内は?
海を前に、人はロマンチストになるのでしょうか?!
素晴らしい女性の横顔を見つめ、文学青年(だった?)の熱情が
迸り出たようですね。 ふむ!!

少しレトロな雰囲気の、カフェの様子も素敵ですね。
隅の席に座り、生クリームを浮かべたカフェなどゆっくりと味わってみたくなります。
「illy・イッリ」という美味しいカフェ・エスプレッソ、他のイタリアのカフェと一味違う、
このトリエステから生まれた、カフェが好きです。

統一広場の前に突き出す「勇者の埠頭」は、夕方になると、
散策の人々で溢れます。 クルリ、クルリと回る、灯台の灯りを見つめ、
埠頭の先から逆に振りあおぐ、トリエステの街。
これもまた、大変素敵な眺めでした。


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